Research & Initiatives
プラナリアの脳を調べることで、脳の機能の中心的なしくみを
明らかにすることを目指しています
新規モデル動物
〜プラナリア〜
恒常性維持や環境適応を制御するメカニズムを分子レベルから個体レベルまで体系的に解析するために、私たちはモデル生物を独自に開発しました。
体をどんなに切られても、再生できる不死身の生き物として知られているプラナリア。実はプラナリアには、もう1つ重要な特徴があります。それは、プラナリアが進化上初めて集中神経系を獲得したと考えられている動物だということです。自動車やコンピュータが、単純な荷車や計算機からバージョンアップを繰り返して徐々に現在のかたちに近づいたように、ヒトの複雑な脳もシンプルな脳から徐々に進化してきたと考えられます。つまり、プラナリアが脳のがもつ基本的なしくみを理解することで、複雑化した脳の中心的な機能の解明につなげることができます。
プラナリアがもつ脳はシンプルな構造ですが、細胞や分子レベルでみてみると私たちヒトを含むホ乳類と驚くほどよく似ているし、学習や記憶する能力もあります。また、プラナリアは多様な環境情報に対する応答を再現性よく示すため、個体の行動を詳細に定量化することが可能です。加えて、RNA干渉(RNAi)による遺伝子の発現操作が容易に行えます。そのため、分子から個体レベルまでの一連を体系的に研究することができるのです。これらの手法を組み合わせることで、私たちはこれまでに光、匂い、温度といった環境情報に対する応答行動に関わる感覚受容や感覚受容器で受け取った情報を処理する脳の神経回路を明らかにしてきました。また、これらのしくみが恒常性の維持や環境適応に重要な役割を担っていることも突き止めました。
このような制御機構の基本的なしくみはヒトと共通していると考えられるため、ヒトの疾患の原因を探るための研究の基礎となり、健康維持や疾病予防に資することが期待されます。
様々な生理機能を統合して環境に適応するしくみ
〜機能と形態〜
生体の生理機能は多様です。1つの生体の中にある様々な生理機能は統合されて、調整されています。しかし、その調節機能の大部分は未解明のままです。そのヒントは「形態」にあると私たちは考えています。実際に、形態の違いが複数の環境応答における効率の違いをうみだすことを最近私たちは発見しています。
「Form follows function(形態は機能に従う)」とは、建築家のルイス・サリヴァンの言葉ですが、生き物の身体こそ形態と機能は不可分であるといえるでしょう。そして、形態と機能の両側面から解析していくことで、生理機能のしくみを明らかにできると考えています。